くま城戦軍研 ―熊代城砦戦国軍事研究所

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山椒(サンショウ)

山椒の実。PhotoACから利用

(ハジカミ)
実の皮を香辛料として利用 ・花や新芽を食用(花山椒) ・木材利用
ムクロジ目ミカン科サンショウ属

1 概要
 日本原産の落葉低木。縄文時代から活用されていた日本の伝統香辛料、英名でも「ジャパニーズ・ペッパー」と呼ばれる。特に果皮を乾燥させ粉末にしたものが香辛料として利用され、爽やかな香りが重用されてきた。
 雑木林の中でも生える日本の気候に適応した植物。雌雄異株で、香辛料として用いる実をつける雌株が商品価値が高く、現在では雌株の挿し木で育てることが多い。

2 戦国前略史
 日本が原産とみられる。北海道に至るまで自然に山中自然林で自生していることがあり、雑木林で自生していることもある。
・縄文時代~弥生時代
 縄文時代の遺跡から実が発見された例もあり、古くから活用されていたと考えられる。山中に自生している植物でもあり、栽培の開始時期は不明である。
・奈良時代~平安時代
 香辛料として定着していく。
 特に魚などとの相性の良さは、平安時代には認識されていたと考えられる。
 中世以前には「ハジカミ(椒)」と呼ばれるが、ハジカミは香辛料全体の総称でもある。平安時代には生姜なども利用され始めており混同しやすい。
・鎌倉時代~室町時代
 引き続き香辛料として珍重されている。
 兵庫県有馬では名産品として山椒が多く収穫されていたが、栽培というよりは山中で収穫していたようである。室町時代には、湯治客に対して現在でいう佃煮を供していた。
 また、15世紀の料理書「大草家料理書」には、すでに「うなぎの蒲焼」に粉末山椒を掛ける食べ方が紹介されているとのこと。

3 戦国時代
 商品価値は徐々に高まっていたとみられる。
 採集だけではなく栽培も進んでおり、棘が生えずに収穫が容易な「朝倉山椒」が兵庫県八鹿で確立するなど、品種改良も進んでいた。また、雌株を挿し木で増やす技術も確立しつつあるとみられる。
 調理方法が大きく進化した戦国時代において、山椒も様々な利用法が開発されていく。
 例えば山椒を効かせた味噌は「嘗め物」としておかずやつまみとして愛用されたとみられる。また、雉をはじめとする鳥肉の調理にも良く用いられている。

4 戦国後略史
 食生活がさらに発展した江戸時代において、山椒はさらにその重要性を増すことになる。香辛料の種類も増えたことからか、香辛料の一般名「ハジカミ(椒)」と呼ばれていた本種の呼び名が「山の椒=山椒」で定着したのも江戸時代とみられる。
 「朝倉山椒」は挿し木によって全国に広まる。また、紀州においてブドウのように大きな実を鈴なりにつける「葡萄山椒」が発見され、生産量が飛躍的に高まることになる。現在に至るまで、紀州は山椒の一大生産地となっている。

5 栽培
 水はけの良い土地が必要だが、乾燥には弱い。原種は普通に天然広葉樹林や時には雑木林にも自生している一方で、条件が悪いと簡単に枯死してしまう作物でもある。直射日光にも弱く、日陰での生産に向くことから、農家が軒先や裏庭で栽培することもあった。
・栽培方法
 実から育てることも可能だが、雌株を挿し木で育てることが多い。特に棘の無い朝倉山椒や大量に実がなるブドウ山椒など、作物として優れた特性を持つ雌株を挿し木で育てることで発展した歴史を持つ。
・栽培地域
 温暖な地域で繁栄するミカン科にしては珍しく寒さに強く、現代では北海道石狩平野を北限とする日本全国で栽培されている。
・栽培注意事項
 前述のとおり、水分管理は難しい作物。また、アゲハチョウが天敵である。

6 食品特徴
 果実の皮を香辛料とするのが主な利用法であるが、それ以外にも様々な利用法が存在する。
・木の芽
 若芽や若葉を利用する。若葉の時点ですでに爽やかな香りがある。味噌と混ぜ食物に塗り調理する「木の芽田楽」が知られる。
・花山椒
 花をつけたもの。雄花の蕾を多量に用いる「花山椒鍋」等が知られる。
・青山椒
 熟する前の若い実を食する。佃煮などに用いる。
・辛皮
 有馬では山椒の木の皮を細かく刻み佃煮にした。強い辛味を持つ。

 主な利用は、熟した実の種子を取り除いた皮を乾かして粉末とする香辛料、「粉山椒」である。
・栄養素
 実の辛み成分は「サンショオール」などが主である。
 胃の消化を助け胃もたれ解消などの効果などがあるが、麻痺成分を含む毒でもある。

7 文化
・毒(毒もみ漁)
 サンショオールの持つ麻痺成分を用いた漁。山椒の皮をすり潰したものと灰を混ぜ、川に流し魚を麻痺させる。毒物といっても軽度の麻痺毒なので人間への害は少なく、昭和期に禁止されるまで日本全国で実施されていた。
・木材利用
 山椒の木は、収穫が大変なので大きく育たないよう剪定するのが現代の主流であるが、選定しなければ3mくらいまでは成長する。
 木材としては硬く良い香りがするため、すりこ木に用いられる。

8 派生種
・犬山椒
 栽培種の山椒とは同属別種。本州、四国、九州の山中に普通に育つ。特に伐採地などに真っ先に育つ先駆植物の一つである。山椒と違い互い違いに生える棘が特徴。山椒と同じ成分を持つが含有量で劣ることから犬山椒と呼ばれる。実の皮は山椒と同じ成分を持つが、含有量が低く香辛料としては役に立たない。しかし爽やかな香りを持つ油分が含まれるため、江戸時代には燃料用や整髪用に利用されていた。

9 戦国活用メモ
 戦国時代にすでにその価値が認識され、大いに利用されている作物である。
 一方、朝倉山椒などの有用種がすでに活用されているものの、全国的に広まっているとは言い難く、また栽培法も現代ほどには洗練されていないと考えられる。適切な栽培方法を知っていれば大量生産も可能であろう。
 


外部リンク
サンショウ(wikipedia)
有馬山椒公式サイト