くま城戦軍研 ―熊代城砦戦国軍事研究所

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資料室

かき菜

(茎立菜、宮内菜)
葉を食用
アブラナ目アブラナ科アブラナ属(アブラナの変種)

1 概要
 かき=欠き、もしくは掻き。
 成長中の若葉を採って、掻いて食べる葉菜は古来より農民に好んで食されてきた。中世以前の日本では、ここで述べる「かき菜」以外にも、全国で似た特性を持つ野菜が育てられ、食されてきたはず。おそらくは、現在に種を残すことなく消えていった「かき菜」は全国に数多存在し、各地で農民たちが育て食していたのではないかと考える。
 この項では、現在に至るまで郷土野菜として栽培が続けられているアブラナの変種である「かき菜」について述べる。
 北関東、特に佐野、足利などの周辺で現在も育てられている野菜。秋播きで冬から春に伸びてくる芽を収穫する。端境期に不足しがちな青物の補給ができるともに、冬季は害虫被害が極めて少ないことも育成の利点となる。
 収穫時期が限られる上に足が早く、地元でも限られた時期しか食べられない野菜である。

2 戦国前略史
 原種「アブラナ」は弥生時代から栽培されていたと思われる。
 アブラナ科は交雑がおこりやすいのが特徴であり、葉を食べることに優れた種が分化していったものと考えられる。
・奈良時代
 万葉集に「佐野の茎立」が読まれており、佐野の茎立菜が存在していたことが見てとれる。「茎立」は繁殖のため伸びる花茎部を食する野菜のことでもあり、現在の「かき菜」と同様の利用がされていたかは微妙ではあるが、この頃から徐々に栽培が始まっていた、と考えるのは大きな間違いではないと思う。
 詳細は長くなるので折りたたみます。

万葉集第14巻(3406番)「上野佐野の茎立折りはやし」

 可美都氣野 左野乃九久多知 乎里波夜志 安礼波麻多牟恵 許登之許受登母
(読み)「かみつけ(上野)の 佐野の茎立 おりはやし 吾は待たむえ 今年来ずとも」
(意訳)「上野国佐野の茎立を採って料理しながら私は待ちましょう。今年は(あなたが私のところに)来ないとしても」
 「おりはやし」を料理する、と訳すのは我ながらちょっと乱暴です。折って煮てかも、掻いて湯がいてかも。
 「かき菜」のシーズンが短く、かつ旧暦の終わりごろから始まることを考えれば、これは「今年一年、(恋人であるはずの)私のところを訪れることがなかったあなたを、(それでも)季節の野菜を料理しつつ待っています」という意味も込められているのかも。

・平安時代~
 似たような食べ方をされる他の野菜も登場、特に全国的にはレタス(萵苣(ちしゃ))の葉を掻く「掻き萵苣」が広まる。
 かき菜も歴史上にはあまり見られないが、両毛地方をはじめとする農家では引き続き育てられ、掻いて食べられていたと考えられる。

3 戦国時代
 引き続き、全国で「かき菜」は食されていたと考えられる。
 特に佐野を中心にした地域では、現在のかき菜に連なる種が育てられていたと考えられる。

4 戦国後略史
・江戸時代
 江戸時代には数々の葉菜が開発され、昔ながらのかき菜は生産性の面から栽培が減ってきたのではないかと推察する。私見だが、似たような特色を持ちつつも生産性が高い「小松菜」などの優れた野菜が開発されたことで、他のアブラナ科の葉菜は栽培種としては選択されなくなっていったのではないかと推察する。
・明治期~現在
 明治期にさらに葉菜は多彩化する。特にレタス界では、収穫性が極めて高い結球種が渡来し「掻き萵苣」はその地位を完全に失う。
 そんな中でも地域野菜「かき菜」は、佐野等において力を失わずに栽培が続けられてきており、現在でも伝統野菜として地位を築いている。特に群馬の農家、宮内禎一氏は、アブラナ科は交雑が多く難しい中で優良種の選抜をすすめ、昭和47年に「宮内菜」として発表。現在にいたるまで、かき菜の代表的品種の地位を保っている。

5 栽培
 9月に播種、苗を畑に植え替えると年明けから春にかけて収穫できる。霜にあたると甘味が増し、さらに美味になるとされる。現在では夏野菜、ナスやキュウリなどの裏作として育てられている。
 1月以降に枝が伸びてくるので収穫し、以後、適宜側枝を掻いて食べる。
・栽培地域
 現在では群馬・栃木くらいでしか栽培されていないが、より広い地域で栽培が可能とは考えれられる。
・栽培注意事項
 厳冬期に育つため虫は付きづらいが、春を超えて育てるとアブラムシなどの害を受けやすい。
 アブラナ科の植物と交雑しやすい。現在の両毛地域でも、栽培用の種は他の品種と交雑しないよう、防護対策をとって育てられている。

6 食品特徴
 順次伸びてくる葉を掻いて食用とする。
 緑黄色野菜であり特にビタミンCや鉄分、カルシウム等が豊富。葉物野菜として利用でき、青物野菜が不足する冬季のビタミン補給として活用できる。
 成長中のものを食する特徴ゆえ、成熟部分を食する野菜に比べて足が早い。

7 文化
 地域に根付いた野菜として現代でも活用されている。特に佐野では「佐野そだち菜」として商標登録され、地域の特産として売り込んでいる。

8 戦国活用メモ
 現在でも伝統野菜としてその種を繋ぎ、愛されている佐野周辺の「かき菜」は特筆すべき存在ではあるが、中世において、同様の野菜は多種多様に存在し、農民たちの健康維持に役立てられていたのではないかとも考えられる。
 特に佐野周辺においては、戦国時代においても現代でいう「かき菜」が育てられ、端境期の貴重なビタミン源となっていたのではないかと思う。
 


外部リンク
かき菜(wikipedia)
ぐんまアグリネット「かき菜」
とちぎプラザ「かき菜」