くま城戦軍研 ―熊代城砦戦国軍事研究所

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唐辛子(トウガラシ)

実を食用(香辛料として利用) ・葉(若い実を含む)も食用(葉唐辛子)
ナス目ナス科トウガラシ属

 種としてのトウガラシには食用とされる「ピーマン」や「シシトウ」も含まれるが、本項では香辛料として用いられる「トウガラシ」のみについて記載する。

1 概要
 新大陸で「発見」され、世界の歴史を塗り替えることになる植物の一つ。
 辛みを感じさせ抗菌性を持つ成分「カプサイシン」が特徴的。
 旧世界、特に熱帯アジアで収穫されていた胡椒などの香辛料より収穫性が高く、栽培も容易かつ適応性も強いこの安価な香辛料は、その火の出るような辛さに象徴されるように燃えるように広がっていった。日本には戦国時代にポルトガル人からもたらされたため、「南蛮胡椒」と呼ばれる。
 香辛料としてのみならず、武器や虫除け、外用薬などにも利用される。

2 伝来前略史
・有史以前
 北米に現在でも残る「チルテピン」が原産種に近いと考えられる。
 アメリカ大陸の各地で有史以前から栽培が行われていたと考えられるが、アメリカ大陸における食品の伝搬の速度はユーラシア・アフリカに比べて遅かったため、野生種から各地で別々に栽培化されていったと考えられる。そのため、同じ唐辛子でも異なる品種が各地に伝わることになる。(参考※1)
 調味料としての辛みの他、食品の腐敗を防ぐ効能も重宝されたと考えられる。
・先コロンブス時代
 アメリカ大陸の各地で進展した各文明においても、唐辛子は重用され、重要な調味料として広まっていった。
 メキシコでは特に栽培に向いていたために広まっており、アステカ王国では税として唐辛子を納める地域もあった。
 ペルーにおいても早くから広まり、紀元前のチャビン、ナスカ文明などでも栽培されていた。インカ帝国においても重要な作物の一つであった。
・欧州伝来
 コロンブスが新大陸に到達した1492年、唐辛子は西インド諸島にも定着し、多くの住民が普段の食事に唐辛子を利用していた。コロンブス船団は大量の唐辛子を持ち帰り、各地の植物愛好家がそれを育てはじめた。
 ポルトガル人はブラジルにおいて、唐辛子を別に発見した。食品として広まったのはコロンブスが持ち帰ったためではなく、ブラジルから持ち帰られた種によるともされる。
 独特の辛みに加え、当時は超絶貴重品だった胡椒と同様に肉の腐敗を防ぐ効果を持つ唐辛子は瞬く間に欧州に、特に庶民階級を中心に広まった。1513年、スペインのイ・バルデスは「スペインとイタリアでは食材として一般的に使われ」、添加物として栄養価も高く、肉や魚の調味料として優れている、と記している(参考※2)
・アジア伝搬
 ポルトガル人は喜望峰周りへの交易路を広げていくが、その先々で唐辛子を植えていき、各地に唐辛子を広めていった。特にインドなどでは現在でも重要な調味料となっており、野菜との漬物「アチャール」などが生まれている。(→料理「あちゃら漬け」)

3 戦国時代
 上記の状況から、天文13年(1543)の鉄砲伝来時、あるいはその後に訪れた西洋人たちにより、唐辛子は早くから日本に伝来していたと考えられる。
 当初は食用としてはあまり流行しなかったともいわれ、足袋の先に入れ霜焼けを防止するのに利用されたりした。
 戦国時代の後期には食用としても各地に広まり、南蛮人から広まったことから「南蛮胡椒」の呼び名が定着する。

4 戦国後略史
・江戸時代
 寛永2年(1625)、江戸の薬研堀において創業した薬種商、中島徳右衛門(wiki)が「七味唐辛子」を開発。漢方の薬でありながら味も良い七味唐辛子は、将軍家光にも認められるほど評判となった。(参考:やげん堀七味唐辛子本舗
 現在のような「蕎麦」が食べられるようになった時期でもあり、薬味として定番となっていく。
 沖縄には薩摩藩を通じて、江戸時代に伝来したとみられる。温暖な地で育ちやすい唐辛子は沖縄に定着し、「コーレーグス」と呼ばれ重用されていく。
・昭和期(戦後)
 復興の中、関東北部では唐辛子の栽培が盛んになった。
 特に栃木では昭和30年に開発された「栃木三鷹」を中心に生産量が多く、唐辛子の消費が多いアメリカを中心に海外へも輸出されていた。現代でも大田原市が全国1位の生産量を誇っている。(参考:とうがらしの郷 太田原

5 栽培条件
・栽培方法
 日当たりと風通し、水はけが良い土地を好む。
 種から苗を作り、苗を定植するのが一般的。
 春~初夏には定植するが、ネックとなるのが「発芽条件25~30℃、成育適温20~30℃」と高温が必要なこと。本州などで普通に種播から育てるのは工夫が必要だろう。
 辛みの元となるカプサイシンを増やすためにリンを増やすと良いとされる。また、過酷な環境で育つほど辛く、水を少なめに育てると辛い実が得られるとか。
・栽培地域
 前述のとおり、発芽・成育ともに高温が必要。
 南方の温暖地域ならば苦労なく育てられるだろう。
・栽培注意事項
 ナス科特有の連作障害がある。数年間はナス科の植物を育てていない土地での栽培が望ましい。

6 食品特徴
 実及びその内部の種を調味料として食用する。収穫したままで食用したり、調味したりすることも多いが、干して乾燥して利用することも多い。
 葉や若い実は、そのまま「葉唐辛子」として、炒め物や佃煮などに利用する。
・唐辛子酒(コーレーグス)
 トウガラシの辛みの元、カプサイシンは水には溶けないが酢やアルコールには溶けるため、それらにトウガラシを漬け込み、辛味が溶けた液体を辛み調味料に使う。漬け込んだ唐辛子は辛みが程よく抜けることで食用にできたりする。
 泡盛に漬けこむ沖縄の郷土調味料「コーレーグス」が有名である。

7 文化
 特徴的な成分から、食用以外でもいろいろな利用法がある。
・武器利用
 唐辛子の粉末を目に吹きかけ目つぶしとして利用したという。
 現代でも、殺傷せずに戦闘力を奪う催涙スプレーとして利用される。
・虫除け
 虫除けの効果がある。特に日本では、乾燥した唐辛子を米びつ内の虫除け(コクゾウムシ対策)に使用する。
・防寒対策
 カプサイシンが高温を感じるセンサーを刺激することで温感を感じる効果があり、温湿布に用いられる。また、特に日本伝来直後の戦国時代では、足袋の先に入れ、霜焼けを防ぐ効果を期待されていた。
・外用薬
 唐辛子から作る液体の塗布薬は、痛みなどの刺激を感じるが、塗布部の血行を良くする効果がある。そのため、筋肉痛や凍傷の治療や、育毛効果を期待して利用される。

8 戦国利用メモ
 新大陸からヨーロッパに渡り、まさに世界の歴史を塗り替えている途上で戦国日本にも来歴している。手にしているのは九州の一部大名だけではあるが、彼らにしてもその真価を理解しているとは思えない。
 安価な香辛料、唐辛子は日本の食生活に大衝撃を与える可能性を秘めているし、調味料以外にも数多くの利用法がある。江戸時代の七味唐辛子の流行を待つまでもなく、多大な利益を生む力があるだろう。


参考文献
(※1)「銃・病原菌・鉄(上)」282頁(J.ダイヤモンド、草思社、2000)
(※2)「トウガラシの歴史」66頁(H.A.アンダーソン、原書房、2017)

外部リンク
・「やげん堀 七味唐辛子本舗」(中島徳右衛門創業の七味唐辛子の本家)
・「とうがらしの郷 太田原」(とうがらしの郷作り推進協議会)

内部リンク
・料理「あちゃら漬け