くま城戦軍研 ―熊代城砦戦国軍事研究所

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スベリヒユ(ひょう)

葉・茎を食用(欧州などで野菜として利用)
 ※日本では沖縄・山形などで食用とするが、基本的に雑草
ナデシコ目スベリヒユ科スベリヒユ属

スベリヒユ(画像はwikipediaより。wikipedia commonsの指針に従い利用しています。)

1 概要
 暑さにも乾燥にも塩分にも食害にも強い、とにかく強い繁殖力を持つ最強の雑草。一方で古来から食用となることも知られてきた。
 特に沖縄では夏の暑い盛りにも育つ青物として重用された。また山形県米沢では、上杉鷹山の施策として救荒植物を収穫し飢饉に備えていた歴史から、郷土料理として定着している。
 栄養素としては、必須アミノ酸「ω-3脂肪酸」を含む。

2 戦国前~戦国時代略史
・有史以前
 生命力が極めて強い植物で、旧世界の温帯から熱帯に広く伝播している。日本にも有史以前から伝来していたと考えらえる。
・古代
 ギリシャなどでは、有史以前から栽培されていた。
・奈良時代~平安時代
 「万葉集」にも「伊波為都良(いわいづら=祝い蔓)」と歌われ、その生命力の強さから縁起物とされ、お祝いのときに軒先に掛けられた(参考※1)
 平安時代には可食と知られており、「和名類聚抄」(資料集)には野菜として「馬莧」(うまのひゆ)とその類似種「馬歯莧」が載せられている。
 しかしいつからか、食品としてはあまり出てこなくなる。後述の江戸時代の状況から鑑みると、普通は食さなくなっていったのではないか。
・沖縄の状況
 沖縄では「ニンブトゥカー」(念仏鉦)と呼ばれ、食用にする。特に高温・乾燥に弱い植物の元気がなくなる夏場においてももりもり育つことから、貴重な夏場の青物として消費されてきた歴史を持つ。利用され始めた時代は不明だが、名称から、それほど古くから定着していたものではなさそうではある。
 夏らしく酢味噌和えが定番とのこと。

3 戦国後略史
・米沢の状況
 江戸時代には、普通には食べない雑草となっていた。
 そんな中、名君・上杉鷹山の治める米沢藩は、飢饉への備えとして救荒植物の手引書である「かてもの」を作成。その中で「はびょう」とあるのがスベリヒユのことと考えられる。
 以後、現在に至るまで山形県ではスベリヒユを「ひょう」「ひょうな」として食している。
・近年
 動物が体内で生成できないために自然界から摂取するしかない必須アミノ酸である「ω-3脂肪酸」(wiki)の一つ、「α-リノレン酸」(wiki)を含むことから、一部では健康食品として注目されている。

4 生息条件
 一年草。乾燥・高温に強く、道端や乾いた畑などで良く見られる。CAM植物(夜間に気孔を開いて二酸化炭素を溜め込み、昼間には気孔を閉じて水分の蒸散を防ぐ)
 日本全国に生息。湿潤や寒冷も苦手なわけではなく、塩分にも食害にも強い、とにかく繁殖力の強い植物。畑の雑草として知られており、その繁殖力の強さに手を焼くことが多い。

5 植物特徴
 地を這うように広がるが、野菜として育てるために直立するように改良された種もある。肉厚な葉が特徴で、植物名「滑り」の由来とも言われるぬめりがある。また、乾燥への対応として二酸化炭素をリンゴ酸として蓄えているため独特の酸味がある。ビタミンC、Eを多く含む他、ω-3脂肪酸の一つα-リノレン酸を含む。
 茎や葉を食用とする。日本では主に湯がいたり、茹でて食べる。前述のように、沖縄と山形で良く食されている。
 ヨーロッパでは「パースレイン」と呼びハーブ・野菜として栽培している地域もある。乾燥しがちなギリシャ・トルコなどで特に人気であり、生でサラダに入れ酸味を楽しむように食べたり、野菜として普通に調理して食べる。
 また果実は熟すると上半分が取れるカプセル状の変わったもので、中に小さい種が万単位で入っている。オーストラリアのアボリジニは、種を集めてすり潰し、パン(ブレッドケーキ)の原料にする。
・ひょう干し/馬歯莧
 山形県では、夏に収穫した「ひょう」を干し、戻したものを正月料理にする。干すことによって保存が効くようになるとともに、ビタミンDが蓄積される。(参考・やまがたの郷土料理「ひょう干し」|おいしい山形ホームページ
 また、同様のものを生薬「馬歯莧(ばしけん)」と呼ぶ。解毒や解熱に効果があるという。

6 注意事項
 リンゴ酸だけではなくシュウ酸も含むため、生で大量に摂取すると中毒を起こす可能性がある。
 なお、前述の米沢藩の「かてもの」には、「鼈と食い合わせるべからず」(亀?すっぽん?)と書かれているが、僕には理由はよくわかりません。

7 文化
 土壌から塩分を取り除く効果があるため、必要な場合にはコンパニオンプランツとしてトマトなどとともに好んで植えられることがある。

8 戦国利用メモ
 畑農家にとっては、その姿も見たくないほどの最強の雑草である。戦国時代において、実際のところ庶民レベルで食べていたのかどうかはよくわからないのだが、少なくとも農民は食べるにしろ食べないにしろ、この最強の雑草には苦しめられていることだろう。
 一方で食品としても有能である。ω-3脂肪酸は有用であるし、乾燥させることで保存食となる点も大きい。上杉鷹山により再発見されるのを待つこともなく、救荒植物として活躍できる可能性があるだろう。


参考文献
(※1)「江戸東京草花図鑑」(岩槻英明、エクスナレッジ、2021)44頁
(※2)「【新版】美味しく食べる山菜・野草」(監修・高野昭人、世界文化社、2013) 102頁

外部リンク
・「Portulaca oleracea」(wikipedia(英語))
・「やまがたの郷土料理・ひょう干し」(おいしい山形ホームページ)

・「アトレティコ・ナシオナル」(wiki)(コロンビアのサッカーチーム。ニックネーム「Los Verdolagas 」はスペイン語でスベリヒユのことらしいです)

内部リンク
 資料集「和名類聚抄