1 概要
平安時代、承平年間(931-938)に編纂された、日本最古の辞典。
気象用語からはじまり地理用語、医学用語、地名、動植物名、その他さまざまな単語の解説が並んでいる。
当時から認識されていた単語がわかるのももちろん貴重だが、漢語と和語が併記されており、万葉仮名と漢語のリンクが取れるのもとても貴重。この本が無かったら平安以前の状況は今以上にさっぱり解読できなかったはずである。
2 内容
並びは音順では無く項目順。その意味するところで大分類である「部」、小分類である「類」ごとに並べている。
「十巻本」と「二十巻本」が残存しており、内容は大きく異なることから、古くから「二十巻本は後世の補遺」と考える人もいる。
万葉仮名で和名を付してあるのが最大の特徴で、片方の記載しかない他の書物の解明に大きく役立っている。また、二十巻本の巻5の途中~巻9は「国郡部」として、当時の地名が列挙されており、地名史料としての価値も高い。
3 作者
和名類聚抄は、勤子内親王(wiki)が博識で知られる源順(みなもとのしたごう、wiki)に命じて編纂させたと言われる。
順は延喜11年(911)の生まれで、承平年間には20代だったことになる。長じて、漢詩の才に加え「三十六歌仙」に並べられるほどの和歌の名手ともなりマルチな才能を発揮するものの、安和の変(wiki)で左遷された源高明(wiki)と仲が良かったこともあり彼の左遷後は官位も進まず、公家としては平凡に終わった。
一方、勤子内親王は延喜4年(904)の生まれで、藤原師輔に嫁ぐが子は無く、天慶元年(938)に死去。その完成を見たか見ないかは不明であるが、「和名類聚抄」の編纂を命じた件以外では歴史上ほとんど名前が現れない。勤子が細かい指示を順に与えて作らせたのであれば、かなりの才覚を持った人物だと思われるのだが。
現世に至るまで国語研究、歴史研究に多大な影響を与え、その関係者たちが、それに見合った報いを得ているとは言い難い。
4 本研究所での引用
本研究所でも多数引用しているが、特筆無い限りは「二十巻本」から引用している。下に引用した項目の巻、部・類などを示すので、内容を詳しく知りたい場合は「二十巻本和名類聚抄」(国立国語研究所)で確認してください。
・引用項目
項目名、本研究所内での記載ページ、二十巻本での巻、部類、場所
索餅 「ソバ(蕎麦)」等 巻16 飲食部飯餅類 14丁裏5行目
薭 「稗(ヒエ)」 巻17 稲穀部 麻類 7丁表4行
斑瓜 「真桑瓜」 巻17 菓蓏部 蓏類 12丁裏9行目
黄㼐 「真桑瓜」 巻17 菓蓏部 蓏類 13丁表4行目
熟瓜 「真桑瓜」 巻17 菓蓏部 蓏類 13丁表6行目
菱子 「菱(ヒシ)」 巻17 菓蓏部 蓏類 14丁表7行目
芋 「里芋(サトイモ)」 巻17 菓蓏部 芋類 14丁裏5行目
葍 「大根」 巻17 菜蔬部園菜類 21丁裏4行目
蒟蒻 「蒟蒻芋」 巻17 菜蔬部園菜類 22丁表4行目
馬莧 「スベリヒユ」 巻17 菜蔬部野菜類 23丁裏1行目
牛蒡 「牛蒡(ゴボウ)」 巻17 菜蔬部野菜類 23丁裏1行目
蒲公草 「蒲公英(たんぽぽ)」 巻20 草木部 草類 7丁表2行目
菰 「真菰(マコモ)」 巻20 草木部 草類 16丁表1行目
外部リンク
「和名類聚抄 – Wikipedia」
「源順 – Wikipedia」
「勤子内親王 – Wikipedia」
「二十巻本和名類聚抄[古活字版] | 日本語史研究用テキストデータ集 | 国立国語研究所 (ninjal.ac.jp)」