くま城戦軍研 ―熊代城砦戦国軍事研究所

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資料室

真桑瓜(マクワウリ)

(甜瓜)
果菜(果実を食用)
ウリ目ウリ科キュウリ属

1 概要
 美濃国真桑村(現代では岐阜県本巣市の一部)が名産であるためにこの名が付くが、中世以前の日本史において「瓜」といえば本種のことと考えてよい。
 日本の風土に適応し、古来から愛された伝統的な果菜。特に夏の暑さを和らげる爽やかな風物詩として、古代から長きにわたり日本人に親しまれてきた。
 甘味などが物足りないためか、現代では西洋種のメロンに押されつつある。

2 戦国前略史
 メロン類は北アフリカ~インド原産とみられる。果菜としての優秀さからユーラシア全土に広まった。現代の日本ではこの時に西に広まったものを「メロン」と呼び、東に広まったものを「瓜」と呼んでいる。本種は東に広まった瓜の代表格といえる。
・縄文時代
 縄文時代には伝来しており、栽培されていた可能性もある。
 弥生時代には穀物の栽培と並行して栽培が行われていた可能性が高い。
・奈良時代
 奈良時代には既に美濃国真桑村が名産地として知られ、さらに各地で栽培され地位を獲得していた。特に乾燥に強く斜面でも栽培できることから、山間部の作物として広まっていった。
・平安時代~室町時代
 ウリ種は変異しやすい作物であり、古くから変種が各地で生まれていたと考えられる。果肉の色から大きく緑、白、黄に分けられるが、古来最も多いのは緑であったと思われる。
 「和名類聚抄」(資料集)には菓蓏部(木の実、草の実)に多数の瓜が掲載されており、瓜がよく食されていたことがわかる。その中の「斑瓜(まだらうり)」「黄㼐(きうり)」「熟瓜(ほそじ)」などはマクワウリの可能性が高い。
 引き続き名産地としてしられる美濃以外にも、大和国などが特産地として知られるようになる。(乾燥した斜面でも育つ適性によるものだろう)
 果菜としては日本において唯一的な存在であったと考えられ、特に平安時代以降の公家社会において、夏の暑さを和らげるものとして重要な風物詩となり、和歌にも多く歌われている。武家社会においても同様に、夏の風物詩として重視されたはずである。

「黄まくわ(大和瓜)」
 大和国は鎌倉時代から瓜の名産地として有名であり、夏の京には大和瓜の売り子が現れるのが風物詩であった。現存種の大和瓜は黄色い実であり、分化の時期は不明だが、早い時期に黄色い瓜が分化され育てられていたものと考えられる。

黄金まくわ(画像はwikipediaより。wikipedia commonsの指針に従い再利用しています。)

3 戦国時代
 戦国時代においても状況は変わらないであろう。
 各地で「瓜売り」の様子が描かれており、各階層に愛されていたのであろう。引き続きフルーツの主流として地位を築いており、特に夏の暑さをしのぐ風物詩として愛用されている。
 また、暑中見舞いの贈答品として、上流階級でも用いられている。
・実例
 天正3年、織田信長は領国美濃の真桑荘で採れた真桑瓜を御所に献上している(『御湯伝上日記』)(参考※1)

4 戦国後略史
・江戸時代
 引き続き各地で生産され、庶民的なフルーツとして愛されていた。瓜売りは夏の風物詩として江戸でも上方でも良く描かれている。
・近現代
 明治以降もしばらくは全国で栽培されていたが、甘味に勝る西洋系メロンが移入されてからは状況が変わってくる。
 大正期にはマスクメロンの温室栽培が始まり、戦後には日本の気候に適したマクワウリと西洋系メロンの交配種(「プリンスメロン」が有名)が誕生。
 現代では西洋種メロンの栽培も容易となり、甘味に劣るマクワウリの栽培は下火になる。特に甘味に劣ることから生食用途は減り、漬物の原料等として用いられるようになっている。

5 栽培条件
 メロンの仲間は高温を好む種が多いが、マクワウリは日本の気候に適応した種であり栽培は容易である。
 果菜類としては乾燥に強い種でもあり、斜面でも育てられる点が有用となる。それゆえに大和国、美濃国など、山地での特産となったと考える。
・栽培方法
 夏植え秋収穫。特に発芽時には、保温することが望ましい。
・栽培地域
 日本の温暖な地域で栽培可能。
・栽培注意事項
 酸性土に弱い。石灰などによる土壌改良が必要な場合もある。特に連作時に線虫の被害を受けることがある。

6 食品特徴
 果実部は豊富な水分と爽やかな食味を持っている。
・栄養素
 ビタミン、ミネラルが豊富。特にカリウムとビタミンCは豊富である。

7 文化
 上記の通り、夏の風物詩であり、特に瓜売りの存在は都市の住民にとって夏の暑さをしのぐのに欠かせない存在である。
 また、貴族や武家の間で暑中見舞いとして瓜を贈る文化も定着していた。

8 戦国活用メモ
 戦国日本においては、現代以上に重用されている存在である。
 戦国時代に生活する際には欠くべからざる物となるだろう。特に夏。
 逆に、ここまで愛されているマクワウリを越える夏の風物詩を開発できれば、一世を風靡できるであろう、とも予想できる。


参考文献
※1 奥田武廣(平成16)『戦国時代の宮廷生活』(続群書類従完成会) 155頁

内部リンク
 資料集「和名類聚抄