くま城戦軍研 ―熊代城砦戦国軍事研究所

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牛蒡(ゴボウ)

江戸時代の農業図鑑「成形図説」より。右が牛蒡、左は胡蘿蔔(人参)CC4.0に基づき利用しています。

根部を食用 ・中国や西洋では薬用、ハーブとして栽培 ・葉を食べる種も
キク目キク科ゴボウ属

1 概要
 植物としては世界各地で見られるが、食用野菜としているのは日本のみ。中国や西洋では薬用、ハーブとして栽培されている。
 食用作物ではない外来品種が、日本で作物として定着した唯一の例。
 どういう発想で「この食物の根を食べよう」と思ったのかは不明だが、平安時代には作物化されていた。古来から短く太い種が食べられていたが、現在の形になるのは江戸時代、江戸近郊滝野川(現在の東京都北区)において長根種が開発され発展して以降となる。
 太平洋戦争中にゴボウを食べさせられた捕虜が「木の根を食べさせられた」と訴える事案も。一方で、近年では健康食品として世界各地で見直されつつあったりもする。
 また、コーヒーと同一の成分であるクロロゲン酸を含有し、たんぽぽ(戦国基礎資料)と並んでその代用品とすることができる。

2 戦国前略史
 原産地はユーラシアのどこか、欧州やヒマラヤなど低温地域と推定される。
・縄文時代
 縄文時代の遺跡から種が出土しており、早くに伝来していた可能性がある。
・平安時代
 中国では古代から薬用として発展、特に果実「牛蒡子」は、解毒作用があるとされ生薬として重用された。
 平安時代には薬用として中国から紹介され、栽培が始まった。その根を食べる習慣がどう始まったのかは不明だが、平安時代にはゴボウが料理に記録されている。初期は干物にして食べたようである。
 「和名類聚抄」(資料集)には「牛蒡」の名で収録され、「悪実」の別名であり和名は「岐太岐須(きたきす)」と記されている。
・鎌倉時代
 京都の東寺に、具体的な収穫量の記録があることから、野菜として本格的に栽培され、食用されていたと考えられる。この頃には、煮物や汁の具としても登場するようになる。
・室町時代
 冬季でも食べられる野菜として愛用されており、正月の縁起物としての地位も確立しているようである。たたきごぼうが正月の膳に並ぶ記録が現れ、正月の贈答品としても重用されている。(戦国時代の状況を考えると、一般人の間でも広く食べられていたとは思う)
 煮込みの他、味噌漬けなども食べられているだろう。

3 戦国時代
 引き続き各地で食用とされていると考えられる。
 豊臣秀吉は天下人となったあとも、郷土・中村の名産であった大根と牛蒡を愛していたそうだ。
 実際に秀吉の家が貧乏だったかどうかは別として、当時の人の共通認識として、田舎の農民でも食べられるような食材であるという認識だったのだろう。

4 戦国後略史
 きんぴらごぼうは、遅くとも江戸時代初期には成立している。
・江戸時代
 元禄年間に江戸近郊の滝野川で鈴木源吾が品種改良を重ね、細く長い「滝野川ごぼう」が誕生する。武蔵野台地の端部で、水はけの良い土地柄は根菜の栽培に適しており、人参(にんじん)と並ぶ名産品となっていく。
 京都においては、滝野川ごぼうを改良し太く短く育てる「堀川ごぼう」が開発された。また、西日本では葉を食べる「白茎種」も生まれ、冬季に食べられる葉菜として食されている。
・昭和期~現在
 引き続き、日本を代表する根菜の一つである。
 しかし日本以外へはあまり浸透せず、太平洋戦争終結後の軍事裁判では、(当時の食料事情では日本人も満足に食べられなかった)牛蒡を捕虜に食べさせたことで、「木の根を食べさせ虐待した」と訴えられる事案も発生している。

5 栽培
 長い種を育てるためには、土壌が深く地下水位が低い土地が必要。
 元は寒い地域の原産と考えらえており、寒さに強い。特に根部は、地表部が枯れても生きており、ー20℃にも耐える。
・栽培方法
 長根種は、春に種を播き冬に収穫することが多いが、秋に種を播き翌夏に収穫する方法もある。短い種はより収穫までの時期が短く、春~夏に播き秋~冬に収穫する。肥料は多いほうが良い。
 長根種の収穫は大変で、「ごぼう抜き」の語源となる。
・栽培注意事項
 連作障害が強く、線虫などの害虫被害を受けやすくなる。キク科同士で連作障害を起こすので、3~5年はキク科植物を植えていない土地で育てる。

6 食品特徴
 根の皮をむき、食用とする。
 葉を食用とする「越前白茎種」もあるが例外的。
 東日本では「きんぴらごぼう」、西日本では「たたきごぼう」が主な食べ方とされている。漬物や御浸し、汁の具、主食への混ぜ物としての利用も多い。
・栄養素
 野菜としてはビタミンが少ないが、食物繊維が極めて豊富なことに加え炭水化物とミネラルに優れている。
 特徴的な栄養は、皮に豊富に含まれるポリフェノールの一種、クロロゲン酸。コーヒー豆に多く含まれている成分であり、牛蒡も切って水にさらすとコーヒーのような茶色を呈する。

7 派生種
・山ごぼう
 北海道、東北などの山中に自生する山菜、オニアザミ(キク科アザミ属)の根の俗称。別属ではあるが牛蒡に似ており、漬物とする。
・越前白茎種
 葉の食用に特化した種。独特の香りがあり、冬の葉菜として愛されている。福井県の他、大阪府などでも栽培される。東日本ではまず見られない。

8 文化
 西洋では根をハーブティーとする。日本でも牛蒡茶は古くから存在する。

9 戦国活用メモ
 日本中で定着している野菜の一つ。ただし、滝野川ごぼう誕生以前の牛蒡は、現在の牛蒡とは違う姿であろうと思われる。
 コーヒーの代用となる点も見逃せない。すでに中東では広まっており、ヨーロッパにもそろそろ広まる頃であるコーヒーだが、本物を入手しようとすれば値が張るだろう。「朝は一杯のコーヒーがないと始まらない」という人が戦国時代に行ってしまった場合には、牛蒡が代用品となるのではないかと考える。
たんぽぽ(資料集)を使うという手もあるが)


外部リンク
ゴボウ(wikipedia)
滝野川ゴボウ(wikipedia)

内部リンク
 資料集「和名類聚抄