くま城戦軍研 ―熊代城砦戦国軍事研究所

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蒲公英(たんぽぽ)

地上部全て可食 ※根は生薬、コーヒーの代用 ゴムの採集も
キク目キク科タンポポ属

カンサイタンポポ(画像はwikipediaより。wikipedia commonsの指針に従い利用しています。)

1 概要
 誰もが良く知る日本古来の春の代名詞。一方、現代の都市では一年中開花する西洋種が発展している。
 古来より食用として知られ、野で摘む草として広く利用されてきた。フランスでは今も野菜の一つとして育てられ、サラダなどで食べられている。また深く長い根にはコーヒーと同様の成分を含み、後にはコーヒーの代用としても用いられるようになっていく。

2 戦国前略史
・古代
 古代エジプトでは既に食物として栽培していた。その後もヨーロッパなどでは、早くから野菜として栽培されている地域もある。
 日本にも古くから自生し、食用・薬用にされていたと考えられる。平安時代の「和名類聚抄」(資料集)では漢名「蒲公草」、和名「布知奈」(ふちな)「多奈」(たな)と記載されている。
・室町時代
 室町時代には「たんぽぽ」という呼び名が出ていた可能性もある。
 また、花の茎を細かく裂いて水につけると反り返る性質を持ち、茎の両方を反り返らせると楽器の「鼓(つづみ)」に似た形となることから「鼓草」の名もある。
・北海道の状況
 たんぽぽはアイヌ語地方名でクナウ、エピッチェキナ《はげた草》など多数の呼び名があった。地域によっては若葉を採取し、食用にした。

3 戦国時代
 引き続き日本中に普通に生えており、食用として利用できるだろう。
 戦国時代の公家、山科言継の「言継卿記」には「たんぽぽ」の記述があり、戦国時代には「たんぽぽ」の呼び名が確立していたと考えられる。
 ここまでの状況及び江戸時代の状況から、地域によっては食用にしていたものと考えられる。特に東北地方など、春先の青物が不足する地域では食物として有用であったろう。

4 戦国後略史
・江戸時代
 江戸時代には作物としての評価が分かれ始める。
 一部では引き続き食物として活用されている。一部の農書では「野菜」に分類されており、栽培もしていた。若葉を摘み、湯がいて食べたり汁の具にするなどの食べ方が伝わっている。
 一方で園芸作物としても花開く。様々な種類が開発され、その愛好者も増えていったが、現在ではその技術や種は多くが失われている。
・明治時代
 明治期には野菜として外来種「セイヨウタンポポ」が移入された。
 在来種のタンポポと違い自家繁殖が可能であり年中花を咲かせるなどの特徴から、在来種タンポポをはじめとする植物にとって過酷な環境である都市部を中心に、セイヨウタンポポが繁殖するようになり現在にいたる。
・現代ヨーロッパ
 現代でもヨーロッパでは食用として栽培されている。
 フランス料理では、葉をサラダとして食する(タンポポのサラダ(wiki,FR))他、苦みを減らすために日光に当てずに育てることもある。(ピサンリ・ブラン、白いタンポポ)また、スロベニアをはじめとする東欧でも愛食されている。

Salade de Pissenlit(タンポポのサラダ)フランス料理。ベーコンが和えられている。(画像はwikipediaより。wikipedia commonsの指針に従い利用しています。)

 また19世紀の北米で、タンポポの根をコーヒーの代用とする方法が編み出された。第二次世界大戦時のドイツでは、外交関係からコーヒーが手に入らなかったことから、代用品として愛飲されたという。(コーヒー代用については後述)

5 生息条件
 日当たりの良い野原や道端などに生息する、深くまで根を伸ばす多年草。日本在来種は、明治以降に移入された種(セイヨウタンポポ)と違い他の個体から受粉しないと繁殖できず、また花も春にしか咲かない。西洋種は一個体で繁殖でき、一年中花を咲かせる。現代の都市などではセイヨウタンポポが優勢だが、在来種タンポポも日本の自然環境に適した進化を遂げており、郊外などでは優勢となっている場所も多い。

6 植物特徴
 植物の中ではとても進化している種であるという。
 黄色い花と種を遠くに飛ばす綿毛が特徴的、地を這うように広がる葉と深く伸びる根を持つ。
 食物としては葉が野菜として食べられるのが主だが、茎や花も食べることができる。強い苦みが特徴。葉にはカルシウムなどのミネラルやA、Kなどのビタミンを多量含み栄養豊富。花には対紫外線でしられるルテインが含まれる。
 茎や葉は葉菜としてサラダにしたり、炒め物や御浸しなどで食べる。花も苦みが強いものの、三杯酢や二杯酢で食べる。
 根は後述の「たんぽぽコーヒー」の他、乾燥させたものが生薬「蒲公英根」とされ、薬用酒や健胃薬に利用される。(参考※1)
・たんぽぽコーヒー
 タンポポの根には牛蒡(戦国基礎資料)と同様、コーヒーの成分であるクロロゲン酸が含まれており、コーヒーの代用として利用できる。
 根を細かく切って炒り、砕いたコーヒー豆と同様に抽出する。コーヒーと同様の茶色を呈し、似た風味を持つとされる。コーヒーの代用とされ、カフェインを含まないことから本家コーヒーより良いともされることもある。
 19世紀のアメリカ合衆国で発見され、第二次世界大戦において、コーヒー豆が手に入らなくなったドイツにおいてコーヒー豆の代用として愛用されたという。

7 文化
 タンポポの茎内部の乳液から天然ゴムを作ることができる。
 量が少なく現代でも工業的実用には至っていないものの、特に乳液が多いロシアンタンポポから乳液を採取し、天然ゴムを造る研究がされている。

8 戦国利用メモ
 日本中に普通に生えているであろう野草。
 フランスなどヨーロッパでは現在でも食用にしているくらいで、採取して食用とすることができる代表的な野草であろう。
 コーヒーの代用品としても見逃せない。すでに中東では広まっており、ヨーロッパにもそろそろ広まる頃であるコーヒーだが、本物を入手しようとすれば値が張るだろう。「朝は一杯のコーヒーがないと始まらない」という人が戦国時代に行ってしまった場合には、たんぽぽコーヒーをお勧めしたい。(ゴボウコーヒーという手段もある) 


参考文献
(※1)「【新版】美味しく食べる山菜・野草」(監修・高野昭人、世界文化社、2013) 10,11頁

外部リンク
・「Salade de Pissenlit(wikipedia/French)」

内部リンク
 基礎資料「牛蒡(ゴボウ)」(タンポポ同様、コーヒーの代用になる)
 資料集 「和名類聚抄